レオナの夢の行方について

オーバーブロットしたのち、夢を諦めないと決めた子どもたちの中で、唯一夢を諦めた大人であり続けるレオナさんについての話です。ゲーム内テキスト、書籍の引用が多々あります。ストーリーを把握しきれてないところもあるので、何か間違い等ありましたら拍手からお教えください。いつも通り幻覚濃度が高めです。

目次

 

唯一、夢を諦めた大人であるレオナ

これまでのツイステッドワンダーランド本編では、6人の生徒のオーバーブロットが描かれてきました。

彼らのオーバーブロットは、世界から「夢」をーー「ありのままの自分」を認めてもらえなかった子どもたちが、抱き続けた痛みや絶望の果てに叫ぶ世界への否定です。そしてその後”ヴィラン”となった彼らが倒された先に待ち受けるものは、勧善懲悪的なバッドエンドではなく、もちろん御伽話のようなハッピーエンドでもなく、ただ昨日と同じ日々が続いているだけです。自分を縛り続ける社会は変わらずそこにあって、その中でたった一つ、けれど何よりも大きな変化ーー「ありのままの自分」を許してあげられるようになった自分が、自身の内に生まれます。

これまでの彼らの「ありのままの自分」を縛り続けたものを以下に箇条書きしました。

リドル……母親の教育
レオナ……第二王子という立場
アズール…自己の劣等感
ジャミル…アジーム家の従者
ヴィル……他者からの評価
イデア……シュラウド家の呪い

この中でレオナ以外の5人の子どもたちはオーバーブロット後、自分を縛ってきたものに対し「夢」をもう一度抱き、諦めずに自由を得ようともがきます。対してレオナだけは作中で一度も、自分の「夢」ーー「自国の王になる」野望を表したことはなく、実行に移すこともありません。

>>拗ねるのも、諦めるのも、 一度本気であがいてからにしろよ。
>>…………まるで、経験があるように語るんですね。

>>まあよーく考えることだな。
>>お前は俺とは違うんだから。

「どうせ自分は、『カリム/兄』のせいで評価されない」
レオナと似た境遇を持つジャミルは未だ「一番になれない葛藤」を抱き本気で夢に向かってあがいたことのないーー言わば未来のある子どもです。そんな彼に対峙し、葛藤を解いたレオナは既に本気で夢に向かってあがいた過去があり、そして未来を諦めた大人でした。「お前は俺とは違うんだから」の呟きから察せられるように今もこれからも、恐らくレオナはその夢を叶えようとすることもなく、諦め続ける人生なのだのだと思います。

また、年齢の対比としてもレオナは20歳、と周りの15~18歳の子どもたちから飛び抜けた歳です。現代日本において子どもから大人へと変わる境界として20歳は一番区切りの意識が強い年齢であり、自分はレオナがその年齢であることに作品の意図を感じます。

以上からレオナはオバブロ組の中でも異質であり、唯一自分の「夢」の行き場がついぞなかった子どもであり、「夢」を諦めてしまった大人として作品内で描かれているように思えます。

 

レオナの夢を認めてはならない世界

>>第二王子はやることなすことケチをつけられ 第一王子を称えるためのダシにされる。どうやったって、一番にはなれない。

>>どれだけ勉強しようが どれだけ魔法を使えるようになろうが…… 生まれてから死ぬまで兄より優秀だと認められることはなく 王にもなれない。

レオナの夢ーー「第一王子である兄より優秀だと認められること=この国の王になること」は、多くの人々を争いに巻き込む可能性を多分に含んでいるものです。兄弟での王権争いというものは珍しいものではありませんが、穏健に、何の人死にもなく王権を奪い取れたケースはそう見たことがないです。レオナの言うとおり、夕焼けの草原の国民たちは「第二王子が第一王子よりも優れている」などということは間違っても口にできません。その些細な現国王への不満は、いつしか国の分断をも呼ぶものです。

また、より大きな権威を得ようと第二王子側に付き反乱を目論む者たちも王宮にはいることでしょう。ただでさえ病に伏せた王の代理としての不安定な王権では、ことさら第二王子の下剋上を恐れる者たちの第二王子への牽制は強くなることと思われます。

 

レオナに夢を諦める選択をさせた”甥”

>>最初に学園から入学の誘いが来たとき、俺はその案内を無視したんだ。 ナイトレイブンカレッジで学ぶ内容なんて、王室が雇ってた教師どもにとっくり習い終わってたからな。 わざわざレベルの低いヤツらに混じって知ってることを学ぶなんざ、時間の無駄だろ?
>>だが……チェカが生まれたことで事情が変わった。実家にいることの”うまみ”がほとんど消えた。 だから、入学の案内が届いた翌年に、学園に来たってわけだ。


現国王である第一王子の息子、チェカが生まれたことは彼の人生の中で夢を諦めなければならなくなった最大の要因です。

ここで語る「実家にいることの”うまみ”」について明言されてはいませんが、レオナが”国王になる可能性”のことを指していると自分は考えています。王宮で忌み嫌われ、お付きのものに付き纏われる窮屈な暮らしをし、気に食わないものをあてがわれ、何より自分を苦しめる原因である口うるさい兄がいる……それでもレオナが王宮に留まっていた理由というのは未だ彼が「夢」を諦めていなかったからだと思うのです。

彼曰く「能天気な王」を下すことは、彼の知略、知識、視野の広さ、カリスマ性、卑怯な手だろうと何だろうと駆使する冷徹さと度胸…諸々を鑑みても、レオナが王の座を勝ち取ることは決して夢物語ではなく、彼自身もそのことは自覚していると思われます。やろうと思えば彼は兄を殺してでも自分が王になる、それくらいの覚悟は持っていることでしょう。

>>国民に未来の王の顔見せをする大切な日だぞ。
>>確かにめでたい日だな。嫌われ者の第二王子の王位継承権が永遠に消えた記念日だ。

なのに彼はチェカが生まれた日からすぐに「王位継承権が永遠に消えた」と自分の夢をスッパリ諦めてしまった。その上まるで王宮から逃げ出すかのように、自分にとって無駄だと分かりきっている学園への入学を決めました。

生まれて一年も経たない新生児なんて、何よりも殺してしまいやすい何よりもか弱い命です。自身が未来の王となるためには簡単なうちに「第一王位継承権」の者を始末した方がいい。それこそスカーのように。いずれは国王と同じく、必ず処分することになるのだから。

ここから先はさらに幻覚の話が続くのですが、自分が思うに、彼はそれが恐ろしかったのではないでしょうか。「王になりたい」という自身の夢を抱けば、この赤ん坊を手にかけることが「できてしまう」自分が怖かった。だから意図的にその命を自分から遠ざけるため、遠い遠い学園へと逃げ出した。

そしてわかってしまったことは、ここで殺せなかったのならばこれから先もずっとこの甥を殺せない、殺したくないのだということ。甥をいつか傷つけてしまわないためには、彼は「王になる」夢を押し殺す他なくなってしまったということ。それは永遠に自分が王にはなれないということ。

ここで、ツイステ展でのスカーについての説明を以下に引用します。

>>ライオンキングに登場するムファサの弟でシンバの叔父ライオン。プライドランドの支配者になろうと、ハイエナを子分にして悪巧みを実行しますが、実は小心者です。
>>自分を取り巻く環境を呪い、苦悩し絶望する。しかし自らの力に気づいた時、それが破滅に向かう道だとしても突き進み、舞台の中央に立つのです。

レオナは破滅に向かう道を選べませんでした。スカーのように、チェカをためらいなく傷つけることができませんでした。自身の野望と、冷徹さと、諦めと、国益と、チェカへの情、すべてをぐちゃぐちゃに抱えながらも、理性的に、彼なりの情を持って、自身の手綱を握っている人であると思います。

ここでちょっとイデアとレオナはやはり対象的であり、しかし互いに似通っているとも感じて。二人ともNRCへと入学した際自身の夢を諦めていた始まりは同じですが、イデアは6章の際に「弟」のためならば世界を壊してでも「夢」を叶える決意をしました。対してレオナは自分が国王になるーーひとつの世界を壊すであろう「夢」を「甥」のために諦め続けています。

「愛」を抱くことで「夢」を手にした者と、「夢」を手放したことで「愛」を手にした者。逆さまの展開とはなりますが本質としては同じ、彼らの「愛」による選択です。……といっても恐らくレオナは未だ、自身がチェカを愛している意識がないままにただ恐ろしいと、それこそ「小心者」のように怯えているのかもしれません。いつかなぜ自分がそれを恐れていたのか、自身の中の愛に彼が気づく日が来ますようにと、そう願います。

レオナの夢がどこに行くのか、もう二度と彼は夢を抱かないのか、やはりどうしても気がかりではあります。けれど第二王子として忌み嫌われてきた息苦しい王宮の中で、「ありのままの自分」に対して無邪気に好意を示す存在を得たことは、きっと何らか彼の心を軽くさせるのではないだろうかと。7章のインターン先を見る限り彼はもう、夢を諦めたその先を思い描いているのだろうと、私は思えてならないです。

 

以上、乱文を失礼いたしました。レオナ故郷イベ前の駆け込み考察でしたが、どうかあの…楽しい里帰りとなりますように…!頼む〜〜!ヤバい雰囲気になったらたすけてチェカくん(悲鳴)