骨身に沁みる(途中)

 ※めちゃくちゃ途中です…書きたいとこだけ…

 

 それはあたかもふいごのようで。

 口付けのたびに淡く燃え立つそれ。そろ、とぬるい息を舌に乗せてあなたの肺腑に注ぎ込めば、うだった青が膨れてはパチンと弾け、弾けてはゆらりと膨れた。夢みたいに。繰り返し。
 生きているみたいですね。ふと呟くと、彼はまるで見当外れの回答を聞いたとでも言うように、意地悪く口を歪めてみせたのだった。

 

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「あなたが欲しい」

 口からまろび出てしまえばどうということはない。自身では名の付けられなかったそれは何の変哲もない、ただの告白だった。
 夕暮れ。鐘の遠鳴りが冷えた石壁に吸い込まれていく。静けさの中、自分の呼吸がやけにうるさく感じて息を止めた。棚にしまい込まれるはずだったボードゲームの箱が、パタリと音を立てて倒れた。
 しまった、と思う。衝動でしかなかった。計画も、準備も、目標も、話術も、対価も、すべてを放って持ちかけた杜撰過ぎる契約だった。否、それは幼子のわがままと変わらなかった。
 叶うあてのない唐突な要求の答えは、当然のように沈黙だった。恥ずかしいとか焦りだとか、今思い返せばいろいろな感情が浮かぶけれど、その時の僕は自分自身ですら戸惑いの渦中にいた。置きどころのなかった彼への想いにぺたり、貼り付けられたラベルの意味を理解しようと必死だった。失言を誤魔化すことも、この話の利得を述べ立てることもできず、ただただ愚直に息を止めたまま、返事を待つ他なかった。

 ゆっくりと彼の腕が持ち上がる。俯きがちな目元は青い火で遮られて覗けない。逡巡のためか、袖から覗かせた指が彼の口端に引っかかった。真っ赤な粘膜がちらりと引き攣れて、赤い夕日に照らされる。そんな一瞬に思わず目を背けてしまうくらいには、僕は手遅れのようだった。

「いいよ」
「…………え?」
「いいよ、付き合ってあげても」

 弾かれたように顔を上げる。窓辺からの逆光を背負った彼の表情はどんなだったか。ほどよい暗がりに隠されたあなたを、僕は見つめて想像した。告白の快い返事はそうだ、融けそうに甘い笑顔で応えるに決まっている——この時の僕のように。

 信じがたいその一言に、僕はもうあとかたなしに頭がぽわぽわとしてしまって、この手にするりと掴めたそれを逃さないように必死で、身体は勝手に彼の背をかき抱いていた。恋をすると人はまるで、稚魚のように情けなくなるのだと遅れて意識が追いついた。今までそれをさんざ利用してきた僕が、そんな愚かさにあっさり身を落とすだなんて。そんな計算違いを誰が予想しえただろうか。
 手放し難かった。胸に滲んだこの温もりが、あまりにも手放し難かったから。肝心の契約の対価を——彼が僕に、欲したものは何だったのか。

 それきりずっと、聞きそびれている。

 

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