この世のものは海陸問わず、「利用できるもの」と「利用できないもの」とに分かれている。
「まあ、僕の慧眼を持ってすれば大抵のものは扱えますが」
自負を口にすれば、向かいに座る彼がフヒヒッと奇妙な笑い声を漏らす。
「流石アズール氏。拙者も負けていられませんなぁ」
コトリ。イデアさんが抓みあげた駒が並べられた札の上を滑り、新たに領地を主張する。またトリッキーな手を、と顰める僕の眉は、楽しげな口元を隠し切れてはいないだろう。
「わかりますぞ〜。どんな貧弱な手札でも有効活用するのが、ボドゲの醍醐味でござる」
「ふむ……そうですね。僕もイデアさんに習うとしましょうか」
「ホホッ、ここでカウンター? 熱い展開キタコレ!」
普段なら既に捨てている役に立たない手札だったが、コストの低さという利点をとって保持してあった。技能カードでこちらの手札分の枚数を相手に捨てさせて、領地奪還である。
うぐぐと唸るイデアさんに気をよくした僕は、次に彼の少し色をなくした呟きを聞き取るのに、ワンテンポ遅れていた。
「でもさ、アズール氏。呪いなんてものは僕にもどうにも、ならなかったな」
はらりと、彼の青白い指先から数枚の札が場に滑り落ちる。捨て山に積まれた呪いのカード。このゲームに限って言えば、これらはペナルティ以外の何者でもなかった。
ただ手札のスペースを圧迫するだけの、お邪魔カード。
「……それは、その、あなたの髪のことですか?」
顔を俯けたまま、ちらりと目線を彼にやるが、案外普段通りの顔をしていた。まあ彼の自虐癖は今に始まったことではない。
「そ。青く燃える髪なんて、気持ち悪いだけでしょ。あったかくもないし、青白い光とか目に悪いし、役に立たないくせに無駄にわさわさスペース取るし、ほんと無駄で無意味で無価値、」
「そんなことないです!」
「ヒッ⁉︎」
「はっ⁉︎」
「……いやなんでアズール氏が驚いてんの……」
思いの外大きい声が出てしまった。何故だろうか。彼の髪について、何か主張したい利用価値があるには違いないのだが。
思考を巡らせるが如何せん、うまい利用方法がわからない。確かに悩ましい。エネルギーとして取り出すことは叶わず、本人から切り取れば立ち消えてしまう代物。人目を引くには抜群の効果があるが、いたって本人の希望にそぐわない。青白い光……うーん……虫を引き寄せて……昆虫採集?
数十秒の沈黙が、二人の間に置かれる。
気まずさに音を上げたイデアさんが、青い顔で俯いた。
「い、いいよ。無理しなくて。陰キャの愚痴のフォローに付き合わせてサーセン……」
「ち、違いますよ。あなたの髪は無価値なんかじゃない、だって——!」
そんなことはない。そんなはずはないのに。だってこんなにも僕はあなたの髪を
日頃スラスラと甘言を述べ立てる僕の脳裏は、今はただカラカラと空の回し車のような音を立てるばかりで、何も言葉が紡げない。
ただ一言、弱々しく車輪から転がり落ちたものは
「だって、綺麗、じゃないですか」と。
嗚呼、なんともちっぽけな、拙い僕の感想だった。
Log : 2020.06.20